チェンソーマンってつまり愛じゃん……っていうとてもオタクらしい感想を持った。
わたし、チェンソーマンがはじまったときなんとなくグロ漫画なのかなと思ってそんなに興味わかなくて読んでなかったんだよ。それがさあ最近アレじゃんアレしたじゃん……デンジくんの……その……扉が……アレ……(ネタバレに配慮しようと苦心している図)。なのでそのあたりから本誌をよみはじめて、単行本は9巻まで読んだわけですね。そして結論がでました。愛の物語です。チェンソーマンは愛の物語だ。そう思うに至った。つまり愛じゃん……
気に入ったポイントはやっぱり主人公のデンジくん。デンジくんはまあいろいろあってタイトルどおりチェンソーマンになってまたいろいろあるわけなんだけど、このデンジくんの情緒の成長がものすごエモい。成長してる……ちゃんと学んでる……っていう感動がある。
デンジくんはあまりよくない大人に囲まれて育ち、学校に行ったことがなく、自分の臓器を切り売りして、死んだ父親の借金を返すためにデビルハンターとして働いているんですね。チェンソーマンの世界には悪魔が存在するので、それを狩ってギリギリ食いつないでるという。そしてデンジくんはいちど殺されてしまうんですけど、デンジの家族というか親友だった謎の生物ポチタが自分の命と引き換えに(?)デンジくんをよみがえらせてくれた。それでデンジくんはチェンソーマンになり、マキマという女性と出会うわけです。
ポチタの命と引き換えに生きることになったデンジくんは、ちゃんと生きなきゃな! と思い、自分の人生に目標をさだめます。それが「女の胸を揉むこと」。クソサイテーですよね。アホかと思ってしまいそうなところなんですが、デンジくんはデンジくんなりに真剣なんです。そんでいろいろあってデンジくんはある女の子が持ち掛けてきた取引によって女の胸を揉むことに成功します。ワーヤッタネ! ……とはならない。ならないんだよ。ここがわたしのチェンソーマンが好きな理由です。デンジくんは女の胸を揉んで、呆然とするんですね。「こんなもんだったのか」と。「あこがれてたときのほうが幸せだったんじゃねえか」と吐露するんですね。芋粥ですね。
まあこのあとマキマに「それはこれこれこういうことなんだよ」と説明され、デンジくんは納得するわけですがこれは是非読んでもらいたいよなあ!!!
で、なんでわたしがここを気に入ったのかというと、いや正確にはここだけじゃなくこういう感じで繰り返されるデンジくんの体験と成長なんだけど、とにかく、わたしがつねづね思っている「欲望はそのひとが触れる文化や媒体に左右される」、「煽り立てられた偽の欲望にしたがってもむなしいだけ」ということをあらわしているように感じるから。
デンジくんは性のことをおそらくはそのへんに打ち捨てられているようなアダルト雑誌でしか得ていないわけですね。「女の胸を揉みたい」も実際にデンジくんが女性を見たうえで感じたり思ったりしたことではない。そういう媒体が女体の胸というものを扇情的にあつかい、モノのようにみることを推奨し、女体の胸に触れられることは「男にとって絶対的にいいこと」であるかのように喧伝したからであろうと思うわけです。デンジくんはそれをそのまま真に受けて、「おれもやりたい!!!!」と目標にしてしまったけど、実際やってみるとデンジくんはこんなものなのかと落胆してしまった。自分自身の欲望ではなかったからです。
すけべ漫画だったらデンジくんは胸もめたラッキー! 次は女に何したいかな! みたいな感じで話が進んだと思うんですが、チェンソーマンはね……愛の物語だからよ……そういう相手をモノ化して発情する展開にはならねえんだ。
なんかね、けっこう多くのひとが勘違いしていると感じるんですが、人間がフィクションに影響を受けないなんて嘘ですよ。オタクは規制を逃れたいためによくそういうけど、出まかせですよ。フィクションにはひとの認知や行動を変えるだけの力がある。よく「この本を読んで世界観が変わった」とか「この漫画を読んで将来の夢が決まった」みたいな感想ってあるじゃないですか。それはポジティブな影響もあり得るし、ネガティブな影響もあり得るってことです。たとえば感動物語を読んで優しさに目覚めるひともいれば、差別主義の本を読んで優生思想に目覚めるひともおかしくないわけです。児童ポルノに関しては諸説ありますが、「児童ポルノを見ることで、「子供も性的な存在として見ていいんだ」「性的な存在なんだ」と認知がゆがみ、犯行に及ぶ心理的ハードルが低くなる」という説と、小児性愛者自身の「児童ポルノは実際の子供に対して犯行に及ぶハードルを下げる」という証言はまああるわけですね。もちろん反論もあり、「準児童ポルノで小児性愛者の衝動を抑える」という説もあります。わたしはどっちかというと前者の説の支持者ですね。オタクのどれだけヤバい年齢の少女に萌えられるかチキンレースとかを見てると。
デンジくんはアダルト雑誌のフィクションに影響されて、ネガティブな影響を受け、認知がゆがんだわけです。それが自分の望みだと思い込んだ。でも実際には違ったから落胆した。そういうところが好きなんですね。前述したとおり、「ラッキー!」という反応でもおかしくなかった。でもデンジくんは「え……なにこれ……」とコレジャナイ感を持てたわけです。好き。
チェンソーマンはこれだけじゃなくマジで愛の物語なので、みんなの心に愛が芽生えていく、芽生えているところを説得力のあるエピソードで見せてくるんですよね。その説得力がえぐい。すごい。漫画がうまい。好き。いや読んでほしい……そう思いましたね。読んでほしいあまり、内容をほとんど語れていないのでめちゃくちゃな文章になっているけど、まあいいや……