来月の二冊で完結になるそうだけれども、わたしの気になっているいろいろが疑問票会になるのか何なのかものすごく気になっている。
・学生運動中に十二国記世界へ飛んできた人間について
下巻で陽子を助けてくれる知的な海客の彼。彼は蓬莱について、「そこはわたしが革命に失敗して逃げ出してきた国です」と語る。これは単に彼に人間的な厚みを与えるためだけの設定なのか、それとも、十二国記世界が、蓬莱・崑崙のあるいわば現実世界に失望した「だれか」、「なにか」が作り上げた世界なのか。
十二国記世界は、資本主義的自由経済を許容しながらも、根幹に共産主義で社会主義的な部分がある。ある意味で理想の世界といえる。人民の平等は、現実世界では性差によってなされないことが往々にしてあるが、十二国記世界では、その部分はひとは里木から生まれるという点でおおむね解消される。延王も語っているが、妊娠出産にまつわる身体的、精神的制約が女性にないのならば、性差というのは基本的体力の差異ていどしかない。セックスは存在するようなので、その点においてジェンダーは存在するのだろうが、現実世界と比べれば著しく少ないと言えるだろう。
現実世界の社会主義国では、多くは腐敗し、本来ならば国をたばねるべきではない人間たちが上に立ち独裁となることがある。しかし、十二国記世界では、まずそのような王は基本的に選ばれないし、選ばれたとしても、失脚する。麒麟という首輪が王の首にはあり、さらには践祚する際になにやら「書き込まれ」て、天に対し忠実に、国家に対して忠実に、人民に対して誠実にあることが、求められる。求められるという言葉では弱い。そうあることが、まるで悪魔との契約のように交わされる。
さらに言うなら、資本主義的自由経済によって虐げられるひとびとについては、絶対的権力を持つ王が、王の力の許すかぎりに是正することができる。資本家が労働者を酷使し、奴隷化するのであれば、王はそれを禁止、制限する法令を発すればいい。現実世界の国家では、資本家のおさめる税金が多大であるとか、そもそも資本家と政治家がつながっているとかいう事情でなされないことがあるが、前者は十二国記世界では問題になっていない。有能な官吏が不老不死の仙人であるので、あらゆるノウハウはたまっていき、ただびとである人民では出し抜けないようなシステムなのかもしれない。後者は王による人民に対する不正と解せられ、継続すれば王の天命が尽きる。
ながながとなにが言いたいかというと、十二国記世界は、ベトナム戦争によって資本主義の横暴に怒り、理想の共産主義的社会主義国を夢想した人間が作り上げたような世界だ、ということだ。人間の作った世界だ。天帝というのは、いちばん最初に現実世界の人間社会、神の不在や沈黙に絶望した人間なのかもしれない。海客の彼のように。だとしたら、この点は伏線なのかもしれないなと思うが、無理があるかもしれない。
・王の選定について
「それなら、どうしてあたしが生まれたときに来ないの、馬鹿っ!」(うろ覚え)
図南の翼のラストシーンで、この作品だけみればほほえましい場面でもある。みずからを王ではないと自認しながら、過酷な昇山の旅を越えてきた少女が、王として選ばれるカタルシスもある。
しかし、この部分は「黄昏」あたりからあやしくなる。彼女のいうことが、まさにそのとおりだからだ。王は践祚するまえから王として選ばれていて、麒麟には感じることのできる王気をそなえている。ならば人民を昇山させる意義はなんなのか? これはすでに作中で問われているし、図南の翼でも、よく読めば示されている。「次王を擁する集団は幸運に恵まれ、そのことを『鳳翼に乗る』、次王を『鳳雛』と呼ぶ」と。ここでも王ははじめから決まっていて、さらにはそのほかの人間の昇山は無為で無駄であり、さらには無用に危険だということが示唆されている。
蓬莱で育った高里要、現在の泰麒のように、王気がわからないという麒麟ならともかく、蓬山で生まれ育った生粋の麒麟であるならば、王の昇山を待つよりも、王気をたどったほうがことが早い。人民の無駄な犠牲も不要だ。なぜそうするようになっていないのか? この謎は作中でも提示されているので、解けるだろうと思う。個人的には、天の体現者であるところの麒麟がそこまでやるように義務付けられてしまえば、人民はただ支配されるだけの痴愚にすぎなくなるというジレンマから、多少は犠牲を出してでも、義務をおくことが必要なのだろうか、と考えている。
図南の翼には王の選定についてもうひとつ疑問がある。次王・珠晶が麒麟よりも年下だということだ。珠晶が生まれるまえには、ほかの次王候補がいたのか? それが死んだから、赤子の珠晶に王権が移ったのか? それとも、珠晶が生まれるまで、王はほんとうに不在だったのか。
ほかにもいろいろあったのだけれどもいま忘れているのでここまで。ふたつしかねえのに文章長くなってしまった。