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ゴカム:211話「怒りのシライシ」

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ゴカム:211話「怒りのシライシ」

シライシ~~~~~~!!!!


さりげなくやり手婆の乳を揉んでいるシライシやめーや。
 とにかく最近のというか樺太に入ってからのというか鶴見中尉に協力すると決めてからの杉元の違和感を言語化し、させていくシライシ。梅ちゃんのこととアシㇼパのことも、どちらも喫緊のことで、くらべようがないんだろうけれども、杉元はどちらを選ぶかというのをずるずると留保したまま、ただ近くにいて、手の届くところにいるからという理由でアシㇼパに傾いているように見える。
 あとちょっとショックだったのは鶴見中尉に二百円だかくれと言っていたのは正直方便だと思っていたのに、本気だったところ。すでにあのとき日和っていたんだな、杉元……どっちも選ばない、どっちも助けたい、彼女たちの意思を限りなく無視した方法で! という感じでまあアタイは嫌いだね。

 たとえアシㇼパが傷つこうと後悔しようと一生癒えない傷を背負うことになろうと、それはなにも知らない無邪気な子どもがなにもわからず下した判断ではないのだから、杉元がそれに介入する理由はないし、するべきでもない。先週でもわかっていること。すでにアシㇼパは自分の安全よりも、アイヌ民族の行く先を案じるアイヌであって、ただ導かれることを待つだけの少女ではない。そもそも、彼女がそんな少女であったときなど、杉元と出会ったときからいちどもなかった。
 杉元は嘘をついてアシㇼパをさらったかたちになったキロランケを憎んでいるだろうし、いまでも許していないだろうから、樺太での旅も、ただ引きずられて進んだだけだと思っているんだろうけれども、シライシはそばで見ていたから、彼女がどう学び、どう感じたかを知っている。大国にすりつぶされ塗り替えられていく少数民族の未来やカミ、それを背負って、戦ってでも、命がけでも、ひとを殺してでも守ろうとするひとびと。かつて父もそうであったこと。妻子を捨ててでもキロランケが、ウイルクの娘であるアシㇼパに見せたかったもの、学ばせたかったもの、知ってほしかったもの。キロランケはいくつも嘘をついたけれど、それらには嘘はなかった。現実と現状をただしく把握し、そのうえでアシㇼパに選んでほしかったから。
 でも杉元は、アシㇼパがなにを選ぶかよりも、アシㇼパが安全であることを優先したい。それは、杉元が成人で、アシㇼパがまだ子どもと言っていい歳だから、健全なことに思えるけれど、じっさいはちがう。親が子に己の果たせなかった夢を託すような、いびつな自己実現だ。おとながこどもに健康で、しあわせに暮らしてほしいと思うことは悪ではない。けれどそれは夢想だ。
 まあ、ギラギラした狼にもどることが杉元にとってどうなのか、ということは保留せざるを得ないけれども。

 来たッと言っている鯉登、どういう感情なんだ。そして隅っこのシライシもどういう感情なんだ。
 谷垣の言にどんな男かはひと目見ればわかるというアシㇼパ。ここは解釈に迷うところだけれども、谷垣がお花畑~というより、鶴見中尉がそういう一面も持つ人間であり、谷垣はそれについて述べているだけなんだろう。実際鶴見中尉は話の通じない相手ではない。むしろ話が通じすぎるし、それでからめとってくるタイプだ。アシㇼパが切って捨てるようにひと目見ればわかると言ったのは、たぶん谷垣を否定するとかそういうレベルの話ではないと思う。そもそも、谷垣の言はアシㇼパが鶴見中尉に全面協力すると約束することを疑っていない。アシㇼパはまずその点からまだ判断を留保している。彼女は鶴見中尉のべつの部分で判断したいわけだ。
 ずらっと居並ぶ鶴見親衛隊。宇佐美が近く、菊田が遠いのはアリコの件があったから? そばにいたのに裏切りを見抜けなかったということでかな。

 おまえたちならやれると信じていた、という鶴見中尉に喜色満面の鯉登少尉。ダメじゃん。相手を目のまえにすると「やっぱり好き~!!!」ってなっちゃったんだろうか。
 アシㇼパに対し、脱帽しながら「そちらのお嬢さんが……」という鶴見中尉、やっぱり育ちがいい。アシㇼパの目にウイルクを見る鶴見中尉。目がとても暗い。どういう感情なんだろう。そもそも鶴見はウイルクにどういう感情を持っているんだ。
 ただ、アシㇼパが鶴見に見たのは、おそらくは鶴見はアシㇼパの話を聞かないだろうということだと思う。鶴見の走る道も、走る先も、もう決まっていて、アシㇼパの考えや意見などを受容することはない。アシㇼパがどうしたいかなどということは、杉元以上に考えることをしない。鶴見とアシㇼパが語り合うとすればただ、彼女を自分の道に沿わせるためだけにだろう。
 このへんはある意味鶴見とヒャクノスケヤマネコとのちがいかもしれない。アシㇼパがヒャクノスケヤマネコを得体のしれない男にもかかわらず受容し、甘やかすようなことをしていたのは、まだヒャクノスケヤマネコはある意味「子ども」であって、ある程度の変容性があった。アシㇼパはそれがよいように変わるという可能性だとみていた。そして今回、鶴見を見て、彼がまったく変容性を持たない、狂ったように走り続けるだけの男だということを見抜いた。
 だからアシㇼパは矢を放った。矢を抜き出すアシㇼパの女神のような表情が、酷薄にうつくしい。「私のことは私が決める」。

 月島がアシㇼパの行動に驚くものの、とっさに反応できないのは「少女」であるところが大きいと思う。これが杉元だったら体当たりしても止めていただろう。
 毒矢だ! と叫ぶ杉元。一気にあたりは緊迫。宇佐美はとっさに小銃を捨てたモブ兵士といっしょに鶴見を押し倒して庇う。宇佐美、役得やんけ。離れていた月島は全体に指示を飛ばし、鯉登はさすがの柔軟性を披露し、菊田は部隊の損傷を確認する。
 もぞもぞ「ぶはッ」ってなるほど覆いかぶさられている鶴見、あまりにかわいいですね。そして逃げたぞ!! の一声。

 アシㇼパ、あまりに主人公すぎない? 好きだよ。おまえの恋人でも娘でも嫁でもなんでもない、わたしはおまえの相棒だと叫ぶアシㇼパ、あまりに主人公。ちょっとしばらく杉元がうじうじしすぎていたので、すっきり感がある。どこにもつかずさりとてどこにもつかないわけでもなくというあいまいな立場だった杉元たちが、やっといち勢力に進化した。
 置き去りにされたシライシ、夕べ飲みすぎるから……谷垣もだけど、彼にはインカㇻマッがいるのでね。しかし軽い矢だったんだな、頭に直撃してあの程度とすると、軍帽かぶって厚着してる軍人たちには矢じりが届きもしなかったかもしれない。でもまあ、毒って言われてはね……矢の威力もひと目でわかるものでなし。

 次号予告にいっしょに帰ろうとあるから、いったん北海道に帰るのかな? まあ樺太は日本領だから、海軍に渡してもらうまでもなく船はいくらも出ているだろう。あとは心配なのはアシㇼパのコタンだけれども、読者からすると鶴見がコタンを盾に取る可能性は低いけれどもないとは言えない、という状況で、アシㇼパと杉元はどう考えるかな。

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