少年成長物語感動巨編かよ。
いや……すべてにおいて最高がすぎて語ることがすでにないんですけど。前回との温度差、すごいな……マンボウが10万匹死んじゃうよ。
チカパシが樺太に残るだろう、あるいは再会の約束をエノノカとかわすだろうというのは予想できていたんだけれども、リュウ! リュウのことを忘れてた。リュウも樺太で暮らしてゆけそうでよかった。二瓶の銃もチカパシに託されたしね。
もう内容についてはマジ言うことがないほど完璧なんだけど、いまさらながら、チカパシが杉元と似たような境遇にあったのだなあ、と気づくなどした。流行り病で家族を亡くし……という。ただ、チカパシはアイヌのコタンという、いってみればひとつの家族を形成した共同体にいたので、そこを離れることなく成長することができた。杉元は、和人のムラという、アイヌのコタンとはちがった、やや距離のある共同体であったために、また病気の種類のためにも、ムラを去るという決断をするほかなかった。そして、ほかの人間をただ頼るには、もう杉元は成長しすぎていた。
杉元は状況によって巣立つことを余儀なくされたヒナだったけれども、チカパシは仮の家族を得て、愛情と薫陶をもらって、巣立つこととあたらしい巣を得ることとを同時におこなうことができたヒナになれた。
谷垣が言っていたとおり、チカパシ、インカㇻマッと谷垣の三人は、あくまでにせものの家族、家族ごっこだったと思う。そこに愛があるとかないとか、そういうことじゃなくて、チカパシは谷垣を父親とも兄とも思っていない。インカㇻマッも谷垣を(まだ)夫にしたわけではないし、チカパシも子どもでも弟でもない。谷垣も同様。これは最初家族のふりをしようといったときのチカパシの台詞にもあらわれていて、チカパシは一貫してふたりを父や母には設定しなかったし、谷垣をあくまで知り合いとしていた。三人にとって、お互いは、近しくて親しいなにかであって、それは家族と名付けなくてもいいものだったのだと思う。
血のつながりがなくても家族と呼べるきずなは生まれえると思うけれども、逆に、血のつながらないものどうしのあいだに生まれたきずなのすべてを家族という言葉に集約しなくてもいいんじゃないかなあ。
というわけで、谷垣のいったほんとうの家族をつくりなさいという言葉に、わたしはあまり違和感はなかったのであった。
ホホチリを切ってもなくさないで、エノノカ忘れないでと訴えるエノノカちゃんが最高にカワイイ。
馬ぞりで走り去っていこうとするところにチカパシと名前を叫んで、チカパシはそりから落ちる。そして去っていこうとする馬ぞりと、ヘンケとエノノカのあいだで立ち尽くす。この画が最高にいいと思います。たぶん、このときにチカパシは樺太に残りたいということを強く意識したんじゃないかな。
谷垣の涙……谷垣はよく泣く。しかし、谷垣は、ゴールデンカムイにおける光の父性であるなあと感じた。鶴見は闇の父性だよね。なんとなく指輪物語の「すべてを統べ、すべてを見つけ、すべてを捕らえて、くらやみのなかにつなぎとめる。」という言葉を思い出しちゃう。谷垣は、まああくまでひとりだけだけれども、迷っていたチカパシを受け入れ、教えて、導いて、手放した。鶴見はそこに嘘が混じったり謀略が絡んだりするし、手放さないからね……これから、鶴見のお気に入りの薩摩隼人がなにかをするであろうという予感がするなか、このうつくしい巣立ちが描かれたことにすこし恐怖を感じないでもない。鯉登はなにをえらぶだろうな。
馬ぞりで去っていく面々が笑顔なのがよかった。とくに月島。いつものようにスン……みたいな顔をしていたらどうしようかと思いましたよ。
そして……ヴァーシャちゃんはどこに消えたん????