わたしはダンジョン飯がめちゃくちゃ好きなんだけどあまりここでは語ってこなかったので、せっかくだからダンジョン飯のなかでもっとも考察が簡便な「シェイプシフターの件」について考えてみようと思う。
まずはシェイプシフターの面々から。
ライオス
・目が逝っちゃっている「食べねば」
・やたらにデカい「あわわ」
・カワイイ顔した「ファリン似」
マルシル
・やたら黒魔術にこだわる「アメコミ」
・髪がつやつやしていて適当な三つ編みの「落書き魔術書」
・髪をおろしていてファリンのためならハーピーの卵も食べる「覚悟」
チルチャック
・ピッキングツールが適当な「しもぶくれ」
・すぐ人を頼る「子ども」
・首巻が「マフラー」
センシ
・道具が適当な「センシ(仮)」
・やたらに精悍な「イケメン」
・兜が「穴なし」
偽ライオスから考えていくとして、「食べねば」はおそらくチルチャック。根拠としては6巻巻末のモンスターよもやま話でチルチャックが「スライムが擬態したライオスでも見分けはつかない」というようなことを発言する際に、目が逝っちゃっているライオスを思い浮かべていることから。まあ目が逝っちゃっているライオスを思い浮かべるキャラはいくらでもいるのだが、このおまけ漫画で「なんとなくいまの会話でわかっちゃった……」となっていることから、チルチャック説有力と思う。食べることに肯定的であり、とくに若者にものを食べさせることに執心しているセンシが「食べねば」ライオスをつくりだしたとは考えにくい。食べることはセンシにとっても重要事項であるからこそ、ライオスの(魔物)食欲に対して特別な印象を持ちにくいと思われるからだ。また、マルシルは魔物食を人一倍イヤがってこそいるが、チルチャックほどライオスを「逝っちゃっているやつ」ととらえているふうではない。シェイプシフター事件の直前、シュロー一行と行き会ったチルチャックはシュロー・ライオスコンビにつくかマイヅル・センシコンビにつくかというときにもライオスは逝っちゃっていると考えている。それでもそのときはマイヅルとセンシの組み合わせのほうが危険と考えセンシについていったが、この判断は誤りでセンシはマイヅルとうまくやったがライオスは明かすべきでない真実までシュローに話してしまって騒動の原因となっているため、センシはまとも・ライオスはイカレているという評価が強められた……のかも。
「あわわ」はおそらくマルシル。「あわわ」には本物のライオスには生えていない髭が生えており、全体的に角ばって体格がよく、実際のライオスと比べると過度に男性的な容貌をしている。旅の途中で無精ひげが生えたり剃り損ねたりということはあり得るが、髭が生えうる男性であればそこまで気にならないものが髭の生えないエルフ女性であるマルシルにとっては強い印象として残っていた可能性がある。漫画的省略で生えていないように見えるが、実際には生えていてマルシルには印象に残っているということかも。背丈の低いチルチャックから見たトールマンのライオスがこのように大きく見えるという可能性もあるが、そうするとチルチャックよりも背丈の高いマルシルも現実より多少大きく見え、ライオスほどではないにしても「実物よりも背の高いマルシル」が生まれているはずだがそうなっていない。チルチャックは世慣れているため、自他の体格差を正確に把握している? マルシルは過去回想などを見ても父親が早逝、魔術学校は女学校なのか女性ばかりとあまり男性とかかわることなく生きてきたような雰囲気があり、またエルフの男性はトールマンの男性と比べ中性的(どちらかといえば女性的?)であるなどの事情から、エルフのマルシルからするとトールマンのライオスは「過度に男性的」に見えているのかもしれない。あとはライオスはそれなりに力があって戦士として頼りになり、レッドドラゴンを倒す決め手ともなったが、間の抜けているところも多い。そのアンバランスさが「やたらなデカさ」と「あわわ」に表れているのではないかと思う。センシはあくまでライオスを「若者」として見ており、ドワーフであるためライオスよりもずっと力が強く、レッドドラゴンにとどめをさしたライオスの姿を見ていないので、ライオスを異様なほど大きくイメージする蓋然性がない。
「ファリン似」はセンシ。これはセンシの豆本でファリンについて「ライオスとファリンは瓜二つである」との表記があったことから確実と思われる。また、巻末よもやま話でもマルシルが「ファリンそっくりのライオスつくった人いたよねぜんぜん似てないでしょ」と責めた際に、センシがあからさまに固まっている(チルチャックはおそらくマルシルの勢いに面食らっているだけ)。マルシルのこのセリフから逆に「マルシルが無意識的にファリンに似たライオスをつくったのでは」という考察もできるが、センシの「瓜二つ」「追及されて固まる」という二点から、センシのほうが有力であると思う。ライオスとファリンが瓜二つなら身近に接していたライオスの顔立ちほうが優先されるのでは? と思うが、直前にキメラ・ファリンが登場したため、センシにはファリンの顔のほうが強く焼き付いたのかもしれない。漫画の都合かもしれない。
偽マルシルの「アメコミ」はセンシ。これもセンシの豆本から、マルシルがアメコミ調に描かれているページがあるため。また巻末でマルシルが「アメコミ」をだれが生み出したのかと質問したとき、ライオスとチルチャックはあからさまにセンシを見つめ、センシはあらぬところを見ている。黒魔術に関する忌避感からチルチャックが生み出したとも考えられるが、「アメコミ」は「魔法を使うわよ、黒魔術よ」と発言していて、魔法全般に対する忌避感を抱いているセンシのほうのイメージに近い(チルチャックは通常の魔法については忌避感がないので、「アメコミ」がチルチャックによるものなら「黒魔術を使うわよ」を連呼するのではないか?)。また、エルフとドワーフは過去に戦争を経験しており、センシはエルフに対する偏見を先人から受け継いでいる可能性がある。見た目については作中では間抜けと言われているセンシのような容貌がドワーフの平均だとすると、エルフのマルシルの容貌はバタ臭くうつるのかもしれない。
「落書き魔術書」はチルチャック。「落書き魔術書」の魔術書のなかに「時をさかのぼる魔法」があるが、これはドライアドの果実を目の当たりにしたときにマルシルが発したブラックマジックジョークでチルチャックが「笑えねえんだよ」と突っ込んでいる。魔術書のほかの記述も「らくがきコーナー」や「それらしいことをする」など小ばかにしたようなものであり、チルチャックの性格に沿う。これがセンシであれば魔術書は「持っていない」、「持っているが中身は白紙」、もしくは「マンドレイクの調理法」などだったのではないか。髪がつやつやしているという点では髪についてマルシルとかかわりがあったセンシである可能性もないではないが、マルシルはたびたび「髪は魔術師にとって重要」と口にするため、ともに行動していたチルチャックも耳にしていて「髪に気を使う女」というイメージが過剰なつやつや髪にあらわれたのかもしれない。これはうがった考えだが、チルチャックの好みは「金髪」であることから、その輝きが「髪に気を使う女」として「落書き魔術書」に投影されたとも考えられる。髪型は適当なものの、いちおう偽マルシルの中では唯一三つ編みをしていて(「アメコミ」も真贋四人勢ぞろいのコマでは上側頭部に三つ編みをしているが、そのコマだけであとは消えている)、ライオスやセンシよりも常識人であるチルチャックらしい。
「覚悟」はライオス。ハーピーの卵を嫌がる本物のマルシルとハーピーの卵を食べることも辞さない「覚悟」に対し、ライオスは「どちらも本人らしいことを言っている」と迷うが、これは「覚悟」がライオスの生み出したマルシルだから。ライオスは魔術をファリンとマルシルから学んでいるため、「覚悟」はそれっぽく見える魔術書を携えている。しかし、ライオスは細部に興味がないので髪型は長髪をただ下ろしただけ、くくってすらいない適当なもの。ライオスはファリンを蘇らせるためにまっとうではない魔術まで行使したマルシルを唯一肯定的にみている人間であり、まっとうではない魔術を行使してまでファリンを救ってくれたマルシルのことは強く印象に残っているはずで、そのため「覚悟」は終始シリアスであり魔物食も辞さなくなっている。これはライオスのなかでは魔物食の忌避よりもまっとうではない魔術に対する忌避のほうが強いはずだろうという無意識の判断からと思われるが、古代魔術に親しみ、ファリンを強く慕っているマルシルからすれば、ファリンを生き返らせるための魔術の行使よりも魔物食のほうが忌避感が強く、齟齬が生じてしまっている。このような「論理的に考えれば食べられるだろ?」と考えるライオスと「論理的にはそうかもしれないけど生理的に無理」というマルシル、チルチャックというのはたびたび描かれてきている。
偽チルチャックの「しもぶくれ」はマルシル。マルシルとセンシは両者ともチルチャックについて「幼い子ども」というイメージを抱いているが、それからさらに「かわいい」という印象にまで至っているのはマルシルのほうで、たまに頭をなでたりしている。「しもぶくれ」のぷっくりした顔はそういったマルシルのイメージと思われる。ピッキングツールが適当なことに関しては、マルシルがあまり道具に興味がないためか。センシは罠調理のためにチルチャックから罠の仕組みを教わったり、ゆでミミックを食べるときにチルチャックのピッキングツールを拝借して使用しているので、よく知っているはず。マルシルはゆでミミックを食べるときにピッキングツールを使用している描写もない。「しもぶくれ」のピッキングツールはツールがバラバラにならないようにするホルダーすらついておらず、数も三本しかない。
「子ども」はセンシ。実際のチルチャックは見た目こそ幼くみえるものの、中身は非常に男性的で無闇にひとに頼ることをよしとしない、内面をあかさないといった虚栄的なところがあるが、「子ども」は年少者として周囲を簡単に頼る。この時点ではセンシはチルチャックは妻子がいる成人男性ということを知らず、年少者だと思っているので、チルチャックがなんらかの理由でやむなくセンシたちを頼ることを「年少者の甘え」ととらえていたのではないか。巻末よもやま話でもサキュバスの話で「チルチャックのような子どもには親の姿が見えるのだろうな」と完全に子ども扱いしている。チルチャックはレッドドラゴン相手にミスリル製包丁で正確に目を射抜くという離れ業をやってのけているが、これをセンシは見ていない。見ていたら印象も違ったかもしれない。しかし、罠については一流と認めており、罠についての教授も受けているため、ピッキングツールは正確に把握していた。
「マフラー」はライオス。これは原作で言及されているのでそのまんまと思う。顔立ちなどの容貌はそのままを再現されていて、ライオスが偏見や思い込みをもたない人間だということを示しているが、新入りでともに過ごした時間が短いセンシでさえ把握していたチルチャックの首巻がマフラーでない件を見過ごしているあたり、装飾には興味がないのだと思われる(センシはチルチャックをあわれな孤児だと勘違いしているため、よく気にかけていたから把握していたのかもしれないが)。ミスルン隊長が生み出したカブルーのようにテキトーな人物像になっていないだけ、人間には興味があると言えるかもしれない。
「センシ(仮)」はマルシル。道具がテキトーというのは「しもぶくれ」に通じる。マルシルはほかの仲間とおなじくセンシの料理を手伝ってはいるが、重い道具の持ち運びなどはライオスやセンシがしたと考えられ、道具に対する印象が薄かったのかも? また、マルシルは魔物食を嫌がってはじめは拒絶の立場をとり、そのあいだにセンシたちが調理をするという展開が多く、道具を手に取る機会もライオス、チルチャックに比べて少なかったかもしれない。
「イケメン」はチルチャック。マルシルが「カッコよすぎない?」とコメントしたのに対し、チルチャックが特に強く反発している。ライオスもマルシルに対して異を唱えてはいるが、「センシはいつでもかっこいいよ」という漠然としたもので、メモにも「センシはかっこいい」と書き残しているところから、「普段は考えていないが、センシがかっこいいかかっこよくないかと言われればかっこいいと答える」という程度と思われる。対してチルチャックは「イケメン」の顔を見ながら「こんなもんだろ」と答え、マルシルの意見を「ドワーフに対する偏見」としている。バイコーンの話でチルチャックがセンシに対して「おれもこんな立派な体格なら」と発言しているので、チルチャックにとってはセンシ=カッコイイ、であり、「イケメン」は確実にチルチャック産といえる。
「穴なし」はライオス。これは「マフラー」と同じく原作で言及されている。チルチャックは真っ先に「穴なし」と本物のセンシの違いに言及しており、「イケメン」とあわせてチルチャックのセンシ好きがうかがえる。
というわけで、ライオスは「覚悟」「マフラー」「穴なし」、マルシルは「あわわ」「しもぶくれ」「センシ(仮)」、チルチャックは「食べねば」「落書き魔術書」「イケメン」、センシは「ファリン似」「アメコミ」「子ども」を生み出したものと結論付けるものである。以上。長すぎるな。